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「がんばらない」も選択肢のひとつ。自分の意思で人生を選んでいこう

サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」。

今回は、中医学と心理学の観点から、「健康にたくましく生きられる生活習慣」を提案する漢方コンサルタント・櫻井大典さんのコラムです。

こんにちは、櫻井大典と申します。現在、わたしは漢方コンサルタントとして、さまざまな患者さんの健康相談を行っています。

日々、患者さんからいろんな相談を受けるなかで、特に私が感じるのは「多くの人は、もう十分にがんばっている」ということです。

一方で「自分の意思と信念を持って、人生を選択している人は多くはない」ということも感じます。

そこで本コラムでは、「がんばりと選択」についてお話してみたいと思います。


自分のがんばりを実感して「これでいいんだ」と思えること

SNSが普及したことによって、これまで手の届く範囲にしか存在しなかった「自分の世界」のほかにも、違う世界があることが見えるようになりました。

ただ、SNSを通して見えてくるのは、小ぎれいな世界が多いですよね。ビジュアルから受けるインパクトはやはり強いので、僕たちはその小ぎれいな世界と自分の世界を比べてしまいがちです。

「こんなに毎日がんばっていて、わたしは楽しいことなんて何もないのに、どうしてこの人たちは楽しそうなんだろう?」

「やりたいことをやって稼いでいる人がいる一方で、わたしが我慢してやっている大変な仕事って何なんだろう?」

そんなふうに周りとの格差を実感しては落ち込み、息苦しくなっていませんか? 僕はそういうふうに感じる人たちに、「がんばらなくても、このままでいいんだよ」とお伝えしています。

だって、周りから見てキラキラとしていなくても、「起きて、着替えて、歯を磨いて、化粧をして、会社に行く」と日々の生活を送るだけでも、あなたは十分にがんばっているんですから。

まずは、そのがんばりを実感して、「自分は十分がんばっているんだ」と気づいてあげましょう。

「やめる」という選択肢を遠ざけようとしなくていい

それでも、周りを見渡せば、毎日の生活を送るだけでも「〜しなきゃいけない」とがんばっている人が多いように感じます。

本来は、選択肢に「何もせずに、がんばらないこと」もあるので、「布団の中で、ただ寝ていること」だってできます。でも、ほとんどの人は、ちゃんと起きて会社に行っていますよね。

繰り返しになりますが、その時点であなたはもう十分にがんばっているんです! だからこそ、そこからさらに「誰かの期待に応えよう」「キャパシティを広げよう」とまでしなくてもいいのではないでしょうか。

もちろん、がんばって評価されたい人は別ですよ。そうしたい人はそうすればいいし、できる人はどんどんしていけばいいと思うので、がんばる人を否定するわけではありません。

ただ、みんなが同じようにがんばらなくていい。それぞれに考え方や価値観には違いがあるし、いろいろな事柄に対するキャパシティには個人差があります。

たとえば、仕事における「自分のキャパシティ」=「コップの容量」だとしましょう。

コップの容量には個人差があって、小さいコップを持っている人もいれば、大きなコップを持っている人もいます。小さいコップにたくさんの水を注いだら溢れてしまうように、対応できる仕事量は人それぞれに違うんです。

それに気づかず、周りと比べては「あの人はこんなに仕事をこなしているんだから、わたしも同じようにしなきゃいけないんだ」とがんばってつぶれてしまう人は少なくありません。

できないことをしようとすればするほど、しんどくなるものです。その苦しさを感じているのであれば、「やめる」という選択肢を遠ざけないほうがいいと思います。

できないことを、できるようになっていかなくてもいいんです。小さいコップには小さいコップの用途があるように、あなたにしかできないことは必ずあります。それをきっちりと、ていねいにやることのほうが重要です。

「がんばる」には義務感、「気合をいれる」には自分の意思がある

そもそも、「がんばる」と「気合いをいれる」は違います。

がんばるには「耐える、我慢する」という意味が含まれていて、「がんばって〜しなきゃいけない」という思考に陥りがちです。嫌なことを無理にしている感じがします。

それを続けると、精神的な疲労を感じたり、不安感が強くなったりします。中には、不眠や頭痛、吐き気や血圧上昇など、いろいろな症状が表れる人もいるでしょう。だから、僕の中では、がんばることにポジティブなイメージはありません。

一方、「気合いをいれる」には前向きなイメージがあります。自分から取り組もうとする意思があって、すぐ行動に移れるような状態だととらえています。

だから、やらなきゃいけないことがあったときには、普段は抜いている力をその場だけいれて、乗り切るようなイメージを持っています。言葉の小さな違いに思えるかもしれませんが、それが与える心への影響は大きいものです。

たとえば、いつもはカウンセリングの予約が10件しかなかったのに、今日はたまたま20件の予約があったら、やるしかありませんよね。そんなときは気合いをいれて、その場を乗り越えていき、明日からは通常営業に戻るようにするんです。これが、本来の日常生活の送り方だと考えています。

ちなみに、自分が「がんばっている」のか「気合を入れている」のかわからない場合は、「食事」「睡眠」「便通」の3点を確認とするといいでしょう。

■食欲
(正常)ちゃんとお腹が空いて、食べたい物がある
(異常)いくら食べても満足できない、食欲がない

■睡眠
(正常)ちゃんと眠れている、ちゃんと起きられる
(異常)眠れない、常に眠たい

■便通
(正常)毎日、硬くないゆるくない、バナナ状の便が必ず出る
(異常)便秘、下痢になる

この3点がゆらいでいたら、がんばりが続いて、疲れてるかもしれませんね。

「休む」「やめる」はあくまで選択肢のひとつ

ただ、がんばらなくても、何度も気合いをいれたら、やっぱり疲れてしまいますよね。そのときには「休む」という選択肢があることを思い出して、自分自身をコントロールしましょう。

僕は休息を絶対に取れるようなスケジュールを組むことで、がんばらないように心がけています。たとえば、昼休みは2〜3時間必ず取るようにしていますし、平日の18時までしか仕事は入れず、それに合う期日の仕事しか受けません。

というのも、少し前までは年末年始も働いて、週1〜2日の休みだけを取るようにしたら、毎日が楽しくなくなったから。「やらなきゃいけない」ことばかりになり、それをただ消化する日々が辛くなってきたんです。

それを経験したことで、「やっぱり休まないと駄目だな」と痛感しました。子どもが生まれたことで、家族と過ごす時間を増やしたいと思ったことも理由のひとつです。

「仕事の時間」と「家族の時間」をきちんと分けるために、会社員を辞めて自営業になり、もっとフレキシブルに働ける環境をつくり出しました。

その結果、現在は家族との時間をしっかり取りながら働くことができているので、「誰かに働かされている」という感覚はありません。

こういうことを言えば、「それはあなたのような、能力のある人だからできるんだ……!」と言いたくなる人がいるかもしれません。でも、これは「何を選択するか」という話なんです。

実は、僕はもともと会社員として働いていました。それも「ブラック企業」と言われるような、休みなしの環境です。もちろん我慢してその環境にい続けることもできたでしょう。でも、僕はそれが本当に嫌で嫌で仕方がなかった。だからこそ、自由に働ける環境を求めて、違う道を選択してきました。

そのため決して、僕にすごい能力があったわけじゃなく、そこで働き続けることが嫌だから辞めているだけで……。もしあなたも嫌だと感じているなら、がんばって耐えなくてもいいんです。

「自分の仕事」と「他人の仕事」を線引きする

「がんばらない」という選択肢があっても、「自分が休んだら、みんなに迷惑がかかるんじゃないか」と考えてしまう人がいます。

そういう人は、自分の仕事と他人の仕事をちゃんと線引きするとよいでしょう。これを英語では「It's not your business.(あなたの問題[仕事]ではない)」という言い方をします。

これは「わたしの関心事で、わたしが処理しなきゃいけないことだから、あなたは口を出さないで」という意味ですが、日本人に足りない大事なマインドだと思うんですよね。仕事を線引きできないことは、自分が苦しくなるもとになってしまいますから。

現場を調整するのは責任者の仕事で、あなたの仕事ではありません。現場の責任者は、誰か一人が休んだとしても困らないように、うまくマネジメントする必要があります。

だから、困るような状況になること自体がおかしいし、それが改善されない職場であれば、辞めることも視野に入れたほうがいいでしょう。

同じように、「仕事をどう評価するのか」を考えるのもあなたの仕事ではなく、会社や上司の仕事です。

にもかかわらず、他人から下される不安定な評価ばかりを気にすれば、評価のためにずっと動かなければいけなくなります。

そうではなく、自分のために生きて、「自分が納得できるように何ができるか」で選択していけばいいと思うんです。

とくに、がんばりすぎて苦しくなってしまう人の多くは、周りからの評価を気にして断ることができませんから。

でも、「評価されるか」よりも「自分が納得できるか」のほうが大事なので、時には断る勇気を持つことも必要でしょう。

「予防する意識」を持って、元気なうちに選択肢を用意しておく

あとは、がんばって耐えるのではなく、しんどくなる前に逃げることも大切です。

とはいえ、実際はそう簡単にやめられないですし、新しい道を探すのも大変ですよね。人間には帰属意識があるので、どこかの組織に帰属しているほうが安心感は強いものです。

つらい環境でも、それが本人にとっては当たり前なので、その環境を変えることは大きなストレスになると思います。

かといって、つらくてどうしようもなくなってからやめることは、おすすめできません。

だから、「休む、辞める」という選択をしなければいけないときのために、元気なときに逃げられる環境を用意しておくのはどうでしょうか?

これは「どんなことで自分は生きていけるのか」を調べておくだけじゃなく、家族や友人、同僚などの人間関係を大事にすることなども含まれます。そうすれば、いざというときに、その人間関係がセーフティネットになってくれる可能性があります。

「休む、辞める」という選択に慣れるためにも、小さなことからやめる練習をしていくのも手です。たとえば、帰属しているグループに居続けたり、趣味を続けたりするのがつらかったら、それをやめることを選択できます。

このときに大事なのは「やめる選択をしたあとの出来事」を経験することです。たとえ辞めたことでトラブルが起きたとしても、それに対して自分がどう対処するのか、どういう気持ちになるのかを知っておく。

そうすれば、また同じような状況に陥ったとき、「あのときは、こう対処することで乗り越えてきた」と過去の経験が糧になるんです。

わたしの専門である漢方は、「人間の体は自然の一部である」という考えを基に、季節や気候など自然の流れに合わせて、病気にならないように生活をととのえる健康法です。これは、「予防」を大切にすることでもあります。

何事も転ばぬ先の知恵が大事になるので、漢方の考えに習って「予防する意識」を持って生きていきましょう。そのためにも「仕事よりもプライベートを優先したい」「月収はこれくらいの生活がしたい」と自分の送りたい人生を明確にしておくほうがいいと思います。

そうすれば、条件を満たす選択肢が見えやすくなる。そのときに自分の意志と信念を持って選べば、決断と結果に責任を持てるんです。

自分の人生なので、いろいろな選択肢の中から「自分で選ぶこと」が大切です。がんばりすぎて体や心が疲れ果ててしまう人が減ればいいなという気持ちで、僕はいま、日々そんな提案を続けています。

※この記事は、サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」の連載記事として2021年2月9日に公開されたものです。

企画:神保麻希(サイボウズ)/協力:櫻井大典、流石香織/編集:野阪拓海(ノオト)/イラスト:iziz


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