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会社から自由になるだけでは「脱社畜」とは言えない──大切なのは、自分の人生を歩んでいる実感を持つこと

現代は、会社と個人をめぐる価値観が変化しつつある時代です。これまでは、会社のために個人が犠牲になっても仕方がないという考えが支配的でしたが、これから大切になるのは、個人がよりよく生きるために会社を活用するといった視点です。

このように、「会社と自分の人生を切り離して考えられるようになる」ことを僕は長らく「脱社畜」という言葉で表現してきました。脱社畜を実現するために必要なのは、単に会社を辞めることではなく、会社ではなく自分の人生を自分の意志で歩むことです。その際には、雇用形態は問題にはなりません。

仮に会社員という立場だって、自分の人生を自分の意志で歩んでいるという実感が持てているのであれば、脱社畜を実現している状態だと言えます。この話はよく誤解されるので、折に触れていろんなところで書いてきました。

もっとも、このような意味での「脱社畜」を実現するためには、ひとつクリアにしなければならない問題があります。「自分の人生を自分の意志で歩む」と言ってしまうのは簡単ですが、では「自分の人生」とは何でしょうか? 

特にこれと言ってやりたいことがなかったり、あるいはぼんやりとやりたいことがあっても、具体的に行動を起こすところまで落とし込むことができないという悩みを抱えている人は少なくありません。中には「自分の人生」がよくわからないから、とりあえず会社の示すビジョンやミッションに全面的に乗っかって脱社畜できないという人もいるはずです。

そこで今回は、個人が会社から自由になる過程で必ず直面する「自分の人生の見つけ方」、端的に言い換えるなら「自由との戦い方」について考えてみたいと思います。

セミリタイアした知人の話

僕の知人に、セミリタイアを実現した人がいます。彼はとあるベンチャー企業に初期の社員として入社し、そのベンチャーは上場したため、彼はストックオプションを行使してまとまったお金を得ました。毎日豪遊して暮らすには足りないけれど、それなりに慎ましく暮らすのであれば当面は無理して働かなくてもよい程度の額を手にしたそうです。つまり、彼は自由を手に入れました。

自由を手にした最初のうちは、毎日が楽しくてしかたがなかったそうです。それまでの激務の反動で毎日好きなだけ寝て、平日の昼間に映画館に行ったり、読書に没頭したりして彼なりに充実した日々を送っていました。

ところが半年ぐらいすると、こういう生活にも飽きてきます。彼は自由が欲しくてベンチャーで必死に働いたわけですが、いざ自由を手にしてしまうと、今度はその自由との戦い方がわからずに途方にくれてしまいました

死ぬほど欲しかった自由ですが、このまま無為な生活を一生続けてもそれほど楽しい人生になるとは思えません。だからと言って、いまさらどこかの会社に雇われて働くという気にもなれませんでした。

人間は目指すものや、やるべきことがないと腐ってしまう

実は、このような話はセミリタイアをした人にはよくあることなのだそうです。セミリタイアのような特殊な例を挙げなくても、定年退職後に仕事以外で打ち込めるものが見つからず途方に暮れてしまう人は大勢います。いずれの場合も、充実感が得られないのは目的意識を持って打ち込めるものを会社から離れたところで見つけられていないことに起因しています。

基本的に、人間は目指すものや、やるべきことがないと腐ってしまいます。「なんでもやっていい」状態に置かれると、人は容易に「なにもできない」状態に陥ります。日々の生活から達成感が得られないと、自己肯定感も落ちていきます。達成感が得られないのは、結局のところ、達成すべき目標がないからに他なりません。

つまり、自由と長期間戦い続けるためには、目標設定が不可欠だということです。そして、目標は人生の目的から逆算することで決まります。言い換えるなら、自由と戦うためには、まずは人生の目的を定めるところから始めなければなりません。

会社ではなく、自分だけの人生の目的を考える

では、どうすれば自分だけの人生の目的を見つけることができるのでしょうか。そのためにはどうしても、自分自身と向き合う必要があります。

たとえば、どんな時に幸せだと感じるか、あるいはどういうことをするとテンションが上がるか。または、どんな人をかっこいいと思うか。具体的に尊敬している人がいるなら、なぜその人を尊敬しているのか。こういったことを、会社を離れた一個人としての立場で、一度よく考えてみるとよいと思います。基本的には、就活でやる自己分析と一緒です。

もっとも、就活でやる自己分析なら最終的なアウトプットは就職先候補を選ぶことになりますが、この場合のアウトプットは必ずしもどこかの会社に就職して働くという形にはなりません。

もしかしたら、複業という形で自分のやりたいことを実現することになるかもしれませんし、場合によってはお金にはならないことを人生をかけて追求していくという形に落ち着くかもしれません。大切なのは、他人や世間に左右されない、自分が心からやりたいと思えることを見つけることです。

ただ、そうは言ってもなかなか簡単には見つからないかもしれません。そこで、2つほど考えるためのヒントを挙げたいと思います。

「人生の目的」を考えるための2つのヒント

1つ目は、人生の目的にするなら、消費的なものではなく、生産的なものにしたほうがよいということです。

たとえば、タワーマンションを一棟まるごと買うとか、高級外車を何台も揃えるというのはたしかに目標としてはわかりやすいのですが、そういう目標はどこまで行っても結局は消費活動の一形態でしかありません。

残念ですが、消費はどこまでいっても受け身なものです。一時的に心は満たされても、その後に必ず虚無がやってきます。それよりも、世の中に何かを生み出したり、人に何かを提供することに挑戦するほうが生涯を通じた充実感は得やすいと思います。

2つ目は、些細なことでもいいので、他人の役に立つようなものを目的にしたほうがよいということです。

人間は社会との関わりを完全に絶った状態で充実感を得続けるのは難しいようにできています。どんなにわずかでも、人の役に立つようなことを人生の目的にできれば、社会とのつながりを実感することができますし、何より人から感謝されるのは嬉しいものです。

これは別に、私的な欲求を抱くことを否定しているわけではありません。9割私欲でも、残りの1割で人に役に立つようなものならそれで十分です。

今の仕事に満足しているのなら、とりあえずは仕事の延長線上で自分が人生をかけて打ち込めるものを考えてみてもいいでしょう。ただし、会社と完全に同化してしまうのはよくありません。あくまで個人が主で会社は従であり、個人の目的のために会社を活用するという視点はつねに忘れずに持ち続けてください。

迷走しないために、人生の目的を日々の行動までブレイクダウンする

人生の目的が決まったら、あとはそれを日々の行動までブレイクダウンする必要があります。抽象的な目的を定めただけでは、日々何をすればいいのかわからず、気づけば迷走していたということになりかねません。それを避けるためにも、具体的な日々の行動まで目的を分解しましょう。

人生の目的は一生かかって追求するものなので、素朴に計画を立てると数十年単位の計画を立てなければならなくなりますが、普通の人間にはそんな長い未来を具体的に想像することはできません。

そこで、まずはとりあえず5年後や3年後に自分はどうなっていたいか、という問いを立てます。そこから1年ごとの計画、3ヶ月ごとの計画、1ヶ月ごとの計画、1週間ごとの計画、といった形でブレイクダウンしていけば、最終的には「人生の目的を達成するために、自分は今日、何をすればいいか」まで決めることができます。

ただし、実際に走り出してみると、理想通りにはいかないことにも気づくと思います。たとえば、いざ何かをやってみたら、もっと他のことに興味が出てきて、人生の目的とはあまり関係のない「脱線」をしたいという欲求に駆られることもあることでしょう。

そういう時は、遠慮なく脱線してください。人生の計画は会社の経営計画とは違うので、仮に目標が未達になっても誰かに詰められたりはしません。柔軟にその時の興味に応じて人生の目的を変化させていくのも、生きることの醍醐味です。

それでもやっぱり迷走してるなと感じたなら、その時は目的に立ち返って考えてみるとよいでしょう。いろんなところに寄り道をしつつ、でも迷ったら目的を振り返る、という形で日々を歩んでいけば少なくとも「自由すぎて何もできない」という状況からは脱せます。

人生を通して打ち込めるものを見つけて、自由との戦いに勝利しよう

時代が変化するにつれて、今後はますます人生において会社が占める割合は低下していくと考えられます。そういう時代には、自分の人生を一個人として充実させるスキルがとても重要になるはずです。

実際に「これだ!」という人生の目的を見つけて、毎日を充実させられるようになるまでには、時間がかかるかもしれません。なかなか見つからずに、迷走しながら悩む時期もあると思います。それでも、時間をかけて探す価値はあります。

どんなに時間がかかってもいいので、いつか「これだ!」というものを探しあて、ぜひ自由との戦いに勝って欲しいと思います。

※この記事は、サイボウズ式特集「ブロガーズ・コラム」の連載記事として2019年6月3日に公開されたものです。

イラスト:マツナガエイコ


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