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生産性を高めることだけを考えると、自分のキャリアに損失を生む

ご無沙汰しております。ヨウさんです。 

俺は大手企業を辞めてフリーランスになり、そのあとにベンチャーで週4会社員になり、そしてまた大手企業で週5勤務というキャリアを歩んでいます。そういった経験から、よく聞かれることがあります。

「なんでまた会社員に戻るの?」

「週4勤務って理想的なのに、なんで週5に戻したの?」

こういった疑問です。本当に、すげー聞かれました。

この質問の前提には、「稼ぐことができれば、フリーランスの方が自由である」あるいは「週4は攻守のバランスが取れている」みたいな考え方がきっとあるのでしょう。それ自体は間違いではありません。

というか、俺自身もそう考えてキャリア変遷を辿ったのですが、実際にやってみることで「(俺にとっては)ちがっていた」ということに気づいたわけです。

どういった誤算があったのか? それはコスパ至上主義の盲点に由来しています。

コスパ至上主義の落とし穴

さて、若いころから俺は、個人としての生産性をよく考えるタイプでした。意識がお高い発想ではなく、会社員は頑張っても頑張らなくても、給与に大差はない。

ならば、最小の時間で仕事を終わらせ、その時間をプライベートの時間に割り振った方が、トータルの人生として得に決まっている! そんな風に考えていたのです。

これ自体は共感してくれる人も、多いのではないでしょうか?

そもそもある一定以上の規模感の会社であれば、分業制になっています。よって、個人のワークとして考えた際には、その役割において「自分に割り振られた仕事・作業」をいかに短時間で、高い質で終わらせられるか? というのが論点になります。

非の打ちどころもない発想でございます。もっといえば、直接部門においてはいかに稼いでいるか。間接部門においてはいかに稼ぎが円滑になるようにサポートし、コストを省くか。それが企業に所属することにおける、基本的な価値になります。

ただし、「何をムダとみなすか?」によって話は変わってきます。ここをまちがえると、俺のように少しまわり道して気づくことになるのです。

俺が自信を持って言える「省くべきムダ」

まず削るべきは、単純作業にかかる時間です。たとえばキーボード・ショートカット・キーを駆使すること。これができる人と出来ない人では、作業効率に雲泥の差が出てきます。

同じ作業をするのであれば、かける時間は最小がいいに決まっている。同じ理屈で再利用する内容は自動化するのが良いでしょう。

もうひとつは手戻りです。顧客が求めているもの、上司が欲しているものを丹念に確認する必要があります。それが出来ていない成果物はどれだけ手間暇をかけても、ガラクタになりえます。

それを絶対に避ける。これが出来れば、生産性は格段に上がります。なぜならば自分がかけた時間の大半は売り上げに貢献する成果物、納品物としてそのまま使われるからです。

ここまでは疑う余地のない「ただのムダ」となります。

めんどくさいことに隠れている「省いてはいけないムダ」

それでは省いてはいけないムダとはなんでしょうか?

それは「自分の市場価値を高めてくれる経験」です。いやいやいや、そんなもの省くわけないじゃんって声が聞こえてきそうです。ですが、自分の市場価値を高める経験というのは、わかりやすい形で目の前に現れてくれないんです。

チャンスはピンチの顔をしてやってくる──なんて格言めいた言葉がありますが、自分にとって人生を変えうる有意義な経験というのは、えてして「めんどくさいこと」「やりたくないこと」という形でやってきます。

ここでいう人生を変えうるというのは、それ自体が大きなターニングポイントになるという意味ではなく、振り返ってみるとそのピースがなければ達成していなかったであろう、結果的に重要だった事柄というニュアンスです。

大体においてそれは、自分の職務領域や職位とはかけ離れていることが多いです。俺の場合はベンチャー企業時代、コンサルタントなのに自社製品の提案型営業を求められたことだったり、事業部長としてマネジメントを頼まれたことだったり、です。

めちゃくちゃダルかったです。ですが、やっていくと楽しくなった。

というのも、自分は口がペラペラまわるという自覚はトークイベントなどであったのですが(笑)、ベンチャー企業の数千万円の商材にハンコを押してもらえるほどの信頼を獲得できるとは思っていなかった。

つまり、全く期待していなかったタイミングで自分が持っている素養と新しいロールが上手に紐づいていった経験が出来たんですよね。

それ自体が自分の職能を伸ばしてくれたこともありますが、結果的に転職活動において絶大な効果を発揮しました。もともと大企業に所属していた経験だけでなく、ベンチャーにおいて物・人・金の計上管理を経験しながら、他社優位性の低い商品を売っていた。

こういった掛け合わせの人材はそれほど多くないし、おおむね「変わったパワフルな人材だ」という好意的な印象を持たれることにつながったのです。

石の上にも三年を避けるためには・・・

さて、とはいえこれは危うい問題を孕んでいます。

「めんどくさいこと」「やりたくないこと」が自分にとっての宝石になる保証があれば良いのですが、ゴミクズのまま終わる対象という可能性もあります。

いちばんの不幸は「いっかい取り組んだことは、逃げちゃダメだ」と何年も苦行に縛られてしまうことです。そうして心身をヤラれてしまう人もいることでしょう。

これはコラムで簡単に書けるような話ではないです。ただ少しだけさわりを書くと、俺が考えているのは、大きく以下の2つです。

(1)めんどくささを乗り越えた先に、手に入れたいものがあるか

めんどくささは、どんな好きな対象にだって生じることです。好きなことで食っている人だって、めんどくさいことはたくさんやっています。あるいは、やりたくなさは、単にやってみたことがないから楽しさを知らないという可能性があります。

実際にやってみると自分のなかの意外な適性に気づき、自己効力感を得ていく人も、多くいます。

そういったネガティブな目くらましの先に得られることに、自分自身が興味を持てるか? ということです。これは頭ではなく、心に聞いた方がいい。だいたいにおいて頭で考えると、間違った判断をすることになる。

心で「そういう経験をしてみたい」「そういうスキルを持った自分になりたい」と思えるのであれば、それは取り組んでみる価値があります。

(2)撤退ラインを決めておく

撤退ラインは事前に決めておきましょう。特定のスキルを身につけるのであれば、50時間を投下すれば、ある程度はできるようになっていることでしょう。

小さなプロジェクトであれば、数ヶ月頑張れば、なんらかの兆しは見えてくることでしょう。そういった目処を先につけておき、ベンチマークにしてしまうのです。

こちらは前回の記事もご参照ください。

その時間は「キャリアの浪費・消費・投資」のうちどれ?

それではまとめていきましょう。省くべきムダ、省いてはいけないムダ、それらをもう少しだけ整理することは出来ないか?

たとえば、自分が会社で過ごす時間を、この3つに分けるとわかりやすくなります。それは浪費・消費・投資です。

先に挙げた作業時間や手戻りという時間の使い方はただの浪費です。あなたの人生のムダになります。

与えられた役割において、必要な結果を出すために使う時間は消費です。これ自体は仕方がないし、それで給与という対価をいただいています。顧客に価値を届け、会社に利益をもたらす必要があります。

そして投資です。短期的にはあまり意味をもたらさないけれども、自分の可能性を広げるには「やってみないとわからない」ことが往々にしてあります。

そして会社員が恵まれているところは、そういった機会をふいにもたらしてくれることです。そのために会社のリソースを活用することが許されている、というのはとんでもなく恵まれていることです。

たとえばフリーランスは即戦力が求められますし、基本的には個人の資源しか使えないので、そういった成長の場を享受しにくいのです。

あるいは週4というイレギュラーな雇用形態を結ぶ際にも、ベースとなる給与は市場価値です。自分のそれを高める経験をしないことには、現時点の市場価値の八掛けの給与でい続けることを意味します。これを良しとできるのか。

そういったことへの疑問が、冒頭で書いた「いま会社員でいる理由」の半分くらいを占めています。そういった視点で、会社員という美味しい立場をしゃぶり尽くしてみるのはいかがでしょうか?

ちなみに、フルリモートになった会社員は、週4勤務どころじゃない勤務時間の削減の恩恵をあずかっていると実感しています。同時に、ここでダラけすぎると、市場価値が毀損されてしまうということにも気づきながら、日々を過ごしていきたいと思っています。

執筆:桐谷ヨウ/イラスト:マツナガ エイコ/編集:鮫島 みな

※この記事は、サイボウズ式特集「ブロガーズ・コラム」の連載記事として2021年11月9日に公開された記事です。


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