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副業・兼業の促進。だが「中堅・ベテラン世代はニーズがない」はやるせない──どうする? これからのキャリア

「人生100年時代」──こういった言葉を耳にする機会が増えた。長く活躍できること自体は、喜ばしいことだ。

だが、これとは裏腹に「45歳定年制」など、逆のメッセージもよく見聞きするようになった。これからは、今までよりも長く生き、働く必要がありそうなのに、「わたしは、いつまで働けるのだろう?」「この先、どうなるのだろう?」──そんな不安を抱いてしまう。中堅・ベテラン世代は特にそうだろう。

いや、世代は関係ないのかもしれない。なぜなら、人は必ず年齢を重ねるからだ。これからの未来を考えたとき、どんな働き方、生き方が必要なのか?

この記事では、主に中堅・ベテラン世代の「これからのキャリア」について考える。それはきっと、世代に関わらず「あなたの未来」と関係がありそうだ。


流行る副業・兼業。でも中堅・ベテラン世代は?

先日、ある知人と、中堅・ベテラン世代の副業・兼業について話していたときのことだ。知人はこういった。

最近、副業・兼業が流行っているじゃないですか。企業と人材をマッチングするプラットフォームもありますよね。

でもぶっちゃけ、副業・兼業ができるのは、ITとか、Webとか、マーケティングとか、ブランディングとか、市場分析とか、品質管理といった、専門性が高いスキルをもった人だけなんですよね。しかも、大半は40代前半ぐらいまで。

もっともニーズがないのは、「専門性はないがマネジメント力がある」とか、「リーダー経験や調整力はあるが、それ以外はどうも……」っていう、組織の中では重宝されていた、40代後半~50代の人。そういう方々を、会社は外に出したいと思っているんですよね。

この話を耳にしたとき、「まぁ、確かになぁ」と思った。と同時に、なんだか無性に悲しくなった。それは、51歳のわたし自身が「ザ・当事者」だからなのかもしれない。

セカンドキャリアの構築に有効? 推進される副業・兼業

2022年7月、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定された。副業・兼業を希望する労働者が、適切な職業選択を通じ、多様なキャリア形成を図っていくことを促進するためだ。

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレットを見ると、目的は次のようになっている。

副業・兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効とされています。
また、人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要であり、副業・兼業などの多様な働き方への期待が高まっています。

つまり、副業・兼業は「人生100年時代の、セカンドキャリアの構築に有効」というわけだ。

最初の1文「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効とされています」について。

わたしは2017年にサイボウズで複業(※)をはじめた。スキルの向上はもとより、新たな人との出会いやビジネスの機会など、本業か否かに関係なく、その恩恵を真に感じてきた。第2の人生を準備する上で、副業・兼業はかなり有効だと、心の底から思っている。

※サイボウズでは、副業・兼業を、「複数の本業がある」という意味で「複業」と呼んでいる

政府の副業・兼業推進に見え隠れする「本音」

では、次の1文「人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要であり、副業・兼業などの多様な働き方への期待が高まっています」はどうか?

この言葉を文字通りに受け取れば、必ずしも、ネガティブなことが書いてあるわけではない。だが、暗に「これからは長生きするし、いままでのように定年まで働けるかわからないから、若いうちから準備をしておいたほうがいいよ」──そんなメッセージにも受け取れる

以前、政府の近いところで副業・兼業を推進している人から、こんな話を聞いたことがある。

政府が副業・兼業を推進する理由がわかりますか? 実は、大企業が抱えている中堅・ベテラン世代の人たち、特に、人口がもっとも多い40~50代の人たちを、社会にどうリリースするかって話なんですよ。また、都市部に集中している人たちを、地方に分散させることも目的の1つです。

生産年齢人口の中で、現在もっとも人口が多いのは、1971年から1975年生まれの「団塊ジュニア」と呼ばれる世代。この世代が、あと数年すると定年を迎える(出典:国立社会保障・人口問題研究所

この話を聞いたとき、「あぁ、だから政府は、副業・兼業を推進するのか……」と思った。と同時に、なんだかやるせない気持ちになった。「それじゃあ、まるで、地方は労働者の墓場、姨捨山(おばすてやま)みたいじゃないか!」

姨捨山とは、長野県千曲市と東筑摩郡筑北村にまたがる、「若い息子が、年老いた母親を山に捨てに行く」という伝説が伝わる山だ(息子はその後、母親の知恵で救われるのだが)。

それを踏まえて、『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を読んでみると、こういった記述がある。

副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられる。

文字づらは前向きな印象だけど、政府や企業からの、こんなメッセージにも感じた。

「いままでは、定年まであなたがたの面倒をみてきましたけど……ごめんなさい。もう、面倒をみることができません。なので、若いうちから、副業・兼業できるぐらいの実力をつけておいてくださいね」

「スキル」から「管理」へとシフトせざるを得なかった中堅世代

「副業・兼業できるぐらいの実力をつける」──若いうちならまだいいが、わたしをはじめ、多くの中堅・ベテラン世代は、この社会の荒波をどう乗り越えていけばいいのだろうか?

中堅・ベテラン世代が第2、第3のキャリアを考え始めた時、不利な点がある。それは、「スキルを過去に置いてきている」という実情だ。

社会人になって20代の頃は、スキルアップが大切な時期だ。仕事内容も現場が中心のため、仕事をすればするほど、スキルを身に着けることができる。

だが、30歳を過ぎると、「おまえもそろそろマネジメントをやれ」と言われるようになる。本当は、現場の仕事が好きだし、もっとスキルを磨きたい。けれども、誰かがチームをまとめなければならない。そのため、好きでマネジメントや、リーダーの仕事を選んだわけではないが、せざるを得なかった人がたくさんいる

もちろん、生涯現場で働くために、転職や起業をする方法もある。だが、働き方を大きく変えるのは、誰もができるわけじゃない。家族がいたら、なおさらだ。その結果、自分の成長やスキルアップは脇に置いて、若い社員の成長や、メンバーが気持ちよく働くことができる環境づくりに意識を向けるようになる。

最初のうちは、「オレ(ワタシ)のやりたいことは、こんなことじゃないんだけどな」と悩む。でも、若い社員が成長し、チームがまとまっていくさまをみていると、それはそれで楽しい。やりがいもある。

「あぁ、オレは、みんなの役に立っているなぁ」「現場も楽しいけれど、人の成長を支援する仕事も楽しいじゃないか」――それが、管理職やリーダーを担った人たちの喜びであり、モチベーションだ。少なくとも、かつてのわたしがそうだった。

「部長をやっていました」としか自分を紹介できなくなる

しかし、ふと第2、第3のキャリアを考え始めた時、技術的な「スキル」は、リーダーの仕事をやりはじめたときに脇に置いてきてしまっているし、取りに戻っても、もはや古くなっていることに気づく。

しかも、副業・兼業をはじめ、労働市場に出ようと思うと、ニーズがあるのは「高度なスキル」がある人だ。「専門性はないがマネジメント力がある」人のニーズは……

さらに、「あぁ、オレは、みんなの役に立っているなぁ」と感じられたマネジメントの領域は、成果に対する言語化がしにくい。プロジェクトを推進するコミュニケーション力やリーダーシップ、ゴタゴタをうまくまとめる交渉力や折衝力といった経験値だって、仕事を進めていくうえでは、とても大切な能力だ。だが、この領域の能力や成果を、人に上手く説明するのは難しい。

その結果、「部長をやっていました」「課長をやっていました」のように、これまでの経験を役職でしか、表現できないこともある。

そして、現実を知るのだ。「高度なスキルがないいまのままでは、次のキャリアを築くのは難しいかもしれない」と。「若い人ならいいけれど、どうやっていまから、キャリアを再構築すればいいの?」と。

最近、「働かないおじさん」「使えないおじさん」といったメディアの記事を目にする。確かに、一部にはそういう人もいるのだろう。だが、いままで、自分の成長やキャリアを脇に置いて、会社のために、若手のために働いてきた人たちが、「ニーズがない」と言われてしまう理不尽さに、わたしはやるせない気持ちになる

また、現在、生産年齢人口がもっとも多い、1971年から1975年生まれの「団塊ジュニア」とよばれる世代の人たちが、今後定年を迎える。「そうなったら、社会はどうなってしまうのだろう?」「路頭に迷う人がいなければいいけれど」……わたしは、そんな不安を抱きはじめている。

難しい「人となり」の言語化

だが、中堅・ベテラン世代の側に、全く課題がないのかというと、そうでもない。

というのも、これまで、「副業・兼業したい」という複数の方と話をしてきたが、自分の強みや得意なこと、大切にしていることなど、スキルや人となりを、うまく言語化できない人が、ことのほか多かったからだ。

実は、2021年度に、わたしの地元、新潟県妙高市で、地域の企業と、都市部をはじめとした副業・兼業したい人とをマッチングする試みを行った。2018年に描いた「地方複業」が現実になった形だ。

ITやWeb、マーケティング、人材など、地方の企業で不足しがちな分野と、そういったことが得意な都市部人材をマッチングする。アイデアは、いまでもとてもよいと思っている。だが、実際に取り組んでみたところ、地方の「企業の開拓」や「マネタイズ」など、さまざまな課題があった。

また、労働者側にも課題があった。それは、副業・兼業がしたいといって応募してきているにも関わらず、職務経歴や自分の強み、思いなどを、上手く言語化できない人が、ことのほか多かったことだ。「副業・兼業したいのなら、もう少し書いてよ」という、職務経歴書を何通も読んだ。

ただ……よく考えてみたら、それも、しかたのないことなのかもしれない。なぜなら、多くの、企業で働いている人たちは、普段、付き合いがあるのは社内の人たちだけだ。「自分にはどんな魅力があって」「何が得意なのか?」「自分にとって何が大切なのか?」といった自分なりの考えを、言語化する機会がほとんどない。

また、普段、社外の人とつながりがないから「自身の魅力に気づいていない」場合もある。本当は高度なスキルや経験があって、社外に出れば思わぬ宝かもしれないのに、「自分はただの営業マンに過ぎないから」「生産管理をしていただけで、社外に通用するとは思えません」のように、自身を見くびってしまうのだ。

つまり、中堅・ベテラン世代にとって、副業・兼業の実現には、「自分を言語化できない」「アピールできない」という、本人が解決すべきハードルがある

「どうやら、副業・兼業マッチングの前にやるべきことがありそうだ」──いまは、そんな気持ちに掻き立てられている。

第2、第3のキャリアを築くために

多様性が叫ばれる時代に、「働かないおじさん」「使えないおじさん」とラベル付けし、排除するようなコミュニケーションを見聞きすると、わたしは悲しい気持ちになる。中堅・ベテラン世代の中にも、すばらしい経験や、知見がある人がたくさんいる。

どうすれば、その才能を社会に認知させることができるのか? 副業・兼業のような形で働く機会を得ることができるのか? 少子高齢化をはじめ、日本の社会にはさまざまな課題がある中で、いままで「会社のやるべきこと」をやってきた人たちが、今度は「社会のやるべきこと」へとシフトできるのか?

わたしの意見では、中堅・ベテラン世代の人たちの魅力は、高度な「スキルだけ」ではないと思っている。すでにお話してきたように、プロジェクトを遂行し、いい仕事をしていくためには、「前向きな言動、価値観」や、チームをまとめる「包容力」や「傾聴力」、課題を「言語化する力」、何かあったときの「折衝力・交渉力」、物事を客観的な視点で、俯瞰して捉えられる「メタ認知能力」など、「人となり」が影響を与えるところが大きいからだ。

つまり、「〇〇さんって、いい人ですね」とか、「〇〇さんと仕事がしたいです」と言われるかどうか、の領域だ。もちろんスキルは必要なのだが、「高度なITスキル」といったものではなく。

だが、このような「人となり」は、言語化するのが非常に難しい。こういったところが、上手く言語化できるといいなと思うのだ。

そうすれば、いままでの経験を一度ゼロリセットして、新たな資格を取って飯を食おうとしなくてもよくなる。わたしも起業した経験があるから、ぶっちゃけ言うよ。起業って、そんなに簡単じゃないよ。資格だけで飯は食えないよ。

また、近年、リスキリングとか、リカレント教育といった言葉が流行っている。新たなスキルを身に付けたり、学び直しを行ったりすることも、もちろん大切だ。しかし、まったく新たな環境で、ゼロから学び直すのは難易度が高い。

それならば、いままで、言語化が難しかったあなたの魅力を、ちゃんと言語化することによって、新たな活躍の場のご縁を作ることはできないだろうか。そんな仕組みづくりを、いま、試みている。

ボクらは、逃げ切れない。だから……

いま、60代ぐらいの人たちまでは、「1つの会社で定年まで働いて、あとは、年金と退職金で暮らす」という、これまでの働き方、生き方で、なんとか逃げ切ることができた。

だが、これからの時代を生きるわたしたちは、残念なことに、これまでの働き方、生き方を踏襲したモデルでは、どうやら、逃げ切れそうにない。ボクらはこれからの、第2、第3のキャリアを形成する術を、身に付ける必要がある。

これは、必ずしも、中堅・ベテラン世代だけの話ではない。すべての世代に言えることだ。これからは、こういったキャリア教育が、個人・企業ともに若いうちから求められるだろう。

サイボウズには定年がない。だから、制度上は、働こうと思えば死ぬまで働くことができるのかもしれない。でも、わたしには、80歳までサイボウズで働いている姿をイメージできない。この先のキャリアをどう構築していくのか? それは、わたし自身の課題でもある。

だが、これだけは信じたい。人生100年時代は、生きるために働くのではなく、人生を楽しむためにあるのだ。そのためにも、仕事を通じて、誰かの困りごとを解決できるように、そして、周囲から信頼され長く活躍できるように、これからも走り続けよう。

※この記事は、サイボウズ式特集「長くはたらく、地方で」の連載記事として2022年9月22日に公開されたものです。

イラスト:マツナガエイコ

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