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「分かりあえない」から前に進むには? 大切なのはショートカットせずに向き合うこと

「あ、この人ムリかも」「関わってもムダだな」——そう感じたことはありませんか?どんなに近しい人でも、価値観のちがいはあるものです。

今回は、会社員兼ブロガーのはせおやさいさんに、「分かりあえない人との関わり方」について執筆いただきました。

どうすれば、わたしたちは「分かりあえない」から一歩前に進むことができるのでしょうか?


「多様性」、幅広すぎませんか

最近よく耳にするようになった「多様性」という言葉。

「多様性」ってなに? と問われたとき、年齢や性別といった「属性」的な面であったり、ライフスタイルや価値観といった「思想」面での違い、というようにまとめると伝わりやすいかもしれません。

でも、わたしたちの「違い」をフォローするために、「多様性、大事だよね!」と単語ひとつでカバーしてしまうのは、あまりに安直で、幅が広すぎる。そう思うことはありませんか?

たとえば、わたしは働く母親なのですが、同じ「母親」でも生き方や考え方は千差万別です。仕事に強くコミットをしていくため、育児にコストをかけたり、周りのサポートを積極的に借りていくタイプもいるでしょう。家庭に専念し、子どもを中心にした生活の組み立て方をする人もいるかもしれません。

なのに、「多様性を大切にするために、子育て中の母親の意見を聞こう!」となった場合、ただ「子どもがいる女性」という大きなくくりでまとめられてしまう。

会社で「働く母親の意見を取り入れたいので、話を聞かせてください」と声がかかることもありますが、同じ職場で働くAさんとわたしでは、状況が大きく異なるかもしれません。

それは子どもの年齢しかり、教育方針しかり、育児をする環境しかりです。「働く母親」という属性ひとつでも、まったく違う考えや困りごとがある。

にもかかわらず、「多様性を大切にしよう!」というスローガンでさまざまな人の状況を理解するなんて、かなり難しいことなのではないか。そう思うことが増えました。

「あなた」と「わたし」が「分かりあえなかった」話

というのも、属性が似がちなひとつの組織の中ですら、こんなに違いがあるのだなと痛感した経験があるからです。

出産後、ある会社に勤めていたときのことです。その会社では、男女を分け隔てることなく、仕事を配分してくれ、子どもを産んだばかりのわたしにも、希望すれば地方出張を任せてくれるようなありがたい状況でした。

夫の協力を得て地方出張に飛び回り、会議を重ねていくうちに、親睦会を開いてもらえるとのこと。そこには、たまたま同じ育児中の男性社員も参加していて、子どもの年齢が近かったこともあり、とても話が盛り上がりました。

子どもを産んで育てながらでも、こうしてのびのびと働ける。そんな環境に感謝しながら、会を楽しんでいたときです。

ある若い社員が、わたしと話していた育児中の男性社員に「今日は羽根を伸ばしてのびのびできますね!」と言ったのです。

それを聞いて、少し違和感を覚えました。育児をしている身というのは、子どもと離れていても気持ちはどこか家にあるものです。熱を出していないか、食事は残さず食べたのか、お風呂は泣かずに入れたのか……など、なんとなく気になる部分があるのです。

でもそれは、だれかに強制されているのではなく、自然とそう感じるものなのだろうと思っていました。そのため、なんとなく「普段はのびのびできていない」という前提で話されていることに、胸のどこかがクエスチョンマークを出していました。

そして、その若い社員の方はわたしにも子どもがいることを知ると、「ええ!じゃあ今日はお子さんどうしているんですか?!」と少し責めるような口調で聞いてきたのです。

驚きました。一瞬ですが、まるで悪いことをしていると非難されたような気持ちになったからです。

「うちは夫もわたしと同じくらい育児しているので、なんの心配もなく任せて来た」と伝えても、「ええ、旦那さん大変だなあ」と目を丸くするばかり。授乳する以外のことは、夫でもまったく同じようにできる、と丁寧に説明しても納得がいかない様子でした。

なぜ、同じ育児者として働いている身なのに、男性は「羽根を伸ばしてのびのびと」しているとポジティブにとらえられるのだろう。なぜ、女性は「夫に子どもを任せて来てしまった」とややネガティブにとらえられてしまうのだろう。それは、「子どもは母親が面倒を見るもの」という先入観からくるのかもしれません。

実際に子どもを産んで育ててみて感じたのは、男女の性差はあれど、育児のためのスキルに差はないということ。なのに、男女で対応が異なることに、とても違和感が残りました。

結局、会の盛り上がりで話の結論はうやむやになってしまいましたが、属性が似がちなひとつの組織の中ですら、こんなふうにすれ違うことがあるんだなと不思議に思ったのを覚えています。

わたしたちは本当に「分かりあえる」のか?

わたしにとって、この認識の違いはネガティブな意味ではなく、「前提が違いすぎて分かりあえない人もいる」という印象深いエピソードになりました。

東京と地方では、子どもの養育環境が違うのかもしれません。うちは核家族で親の手助けを受けていない、というのも先入観を与えるメッセージになっていたのかもしれません。

もしかしたら、ヒット曲の歌詞にあるように「育ってきた環境が違うから」「価値観はイナメナイ」ということが、これからも起こりうるのかもしれない。そのように、自分の認識を改めるようになりました。

わたしが経験した例は、あくまでごくごく些細なことでした。でも、「お互いが相手の前提を認識しないまま、自分の価値観をもとに話をして、相手に違和感を与えてしまう」ことは、これからも多く起こりうるのだろうと思います。

たとえば、相手の血液型について、なんとなく「何型ですか?」と聞いてしまうことがあると思います。わたしもそうでした。しかし、あるとき海外の友人に「血液型はとてもプライベートな話だから、いきなり相手に聞いてはいけないよ」と教えてもらったことがありました(そもそも、海外では自分の血液型を把握していない人も多いそうです)。

また、フリーでパートナーがいない男性に向かって「彼女作ればいいのに」と言ってしまう場面もありますよね。これも、相手が異性愛者だと決めつけた前提での投げかけです。そもそも、彼はパートナーや恋愛を必要としないタイプかもしれません。

こんなふうに思いを巡らせると、ありとあらゆるパターンが思い浮かびます。人によっては、こんなにたくさんの配慮が必要になったいまを、面倒だ、煩わしいと思うでしょう。でも、その面倒さ、煩わしさを避けるために配慮を怠ったことで、今まではだれかがどこかで傷ついていたのかもしれないのです。

それでも一緒に前へ進むために

ここでお伝えしたいのは、「だれかを傷つけるのはよくないから、ムリをしてでも配慮しよう!」ということではありません。自分のスタンスを強引に曲げるのではなく、そのもっと手前にある「わたしたちにはこんなに違いがある」ことを、きちんと認識していきませんか? と思うのです。

世の中にはさまざまな属性の人がいて、さまざまな思想の人がいます。その人たちを「普通と違う」「自分の常識から離れている」と突っぱねることなく、相手と自分の違いを自然に受け入れていくことは、そう簡単ではないかもしれません。

なぜなら、先入観や常識、というものはわたしたちが生活をする上でさまざまな判断をショートカットするために有用だからです。そのためには、「みんながこの常識を共有している」という前提が大切だったのだと思います。みんなの常識がひとつであれば、話をするときに端折れる部分が多く、コミュニケーションは楽になることが多い。

でも、そうした我々の「ショートカット」のために、どこかで自分の言葉を飲み込んだり、隠しごとをしたり、本音を言えなくて苦しくなる瞬間が起きているのだとしたら?

今までのわたしは、相手をラベルで判断し、その人自身を見るところまでいたっていませんでした。男性や女性、未婚や既婚、日本人や外国人……。そういった要素は、その人を形づくるひとつに過ぎません。

その人は世界に唯一なのだという目線を向け、「ショートカット」せずに相手と向き合うこと。それが、「分かりあえない」から前に進むために必要なことかもしれない。最近は、そんなふうに思っています。

ここで、あらためて「多様性」という言葉と向き合ってみます。そうした言葉に振り回されずに、ただひとりしかいない「あなた」はどんな人なのだろう? と、判断のショートカットをせずに知っていきたい。そのように誠実に向き合うことでしか、多様性に富んだ社会は実現しないのかもしれません。

一人ひとりと誠実に向き合うことは、とても大変で、決して簡単なことではありませんよね。ときに疲れることや、間違って相手を傷つけることもあるでしょう。

それでも、わたしは世界の解像度が上がったこの状況をポジティブにとらえています。「わたしたちは分かりあえない」、だからこそ「あなたを知りたい」と思い続けて、誠実に向き合っていきたい。

わたしも、まだまだ知らないことばかりです。でも「知らないことを知っている」というのは、大きな一歩ではないでしょうか? これを読んでくださったあなたとも、分かりあえないことを前提に分かりあいたい、という一歩を踏み出していきたいです。

※この記事は、サイボウズ式特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう」の連載記事として2022年2月10日に公開されたものです。

イラスト:マツナガエイコ

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