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「在宅勤務なんてPC1台あればできるでしょ」でも、実際は違った──3年間の試行錯誤でたどり着いた「テレワークの工夫」

地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る特集「長くはたらく、地方で」。

今回のテーマは「在宅勤務とテレワーク」。

新型コロナウイルス感染症対応で在宅勤務を実施する各企業。だが、実際にやってみるとさまざまな不都合も。この難局、どう乗り切るか。

※この記事は、サイボウズ式特集「長くはたらく、地方で」の連載記事として2020年3月11日に公開されたものです。

ご存じの通り、いま(2020年3月当時)、日本は新型コロナウイルス感染症(以下、新型ウイルス)の影響で大変なことになっている。

政府はこれ以上感染者を増やさないために、患者・感染者との接触機会を減らす観点から、企業に対してテレワークによる在宅勤務を強力に呼びかけている。

テレワークといえば、これまで「PC1台さえあれば仕事ができる」といううたい文句をよく耳にしてきた。わたしは2017年の春からテレワークをはじめて約3年になる。会社が東京、自宅が新潟の在宅勤務だが、多くの業務をPC1台で行ってきた。

しかし、普段、会社という「仕事に最適化」された環境で働いている人にとって、PC1台さえあれば、本当に在宅勤務は可能なのか、まったく不都合がないのか……と言ったら、疑問が残る

また、サイボウズで複業を始める前から、ずいぶん長く在宅で仕事をしてきたが、フリーランスが在宅で「自由に」仕事をすることとも、ちょっと違うと感じている。今回、初めて在宅勤務を体験した人にとって、きっと多くの不都合があっただろう。

しかも、今回は多くの小中高、特別支援学校が休校となった。子どもが家にいる環境での在宅勤務には、課題を感じた人も多いはず。「この環境で、いつまで仕事をすればいいのだろう……」と、不安を抱えている人もいるのではないか。

そこで、この記事では、今回の国難で急遽、テレワーク・在宅勤務をしなければならなくなったあなたに、少しでも快適に仕事をしていただくことをテーマに、3年間の試行錯誤でたどり着いた、体験に基づくお話をしたいと思う。

テレワーク・在宅勤務の困りごと―業務編


まず、在宅勤務をするにあたり、多くの人が体験しているであろう困りごとについて挙げてみたい。

在宅勤務の困りごとには、大きく「業務のこと」と「プライベートのこと」の2つに分けられる。

社内の情報にアクセスできない問題

多くの企業では情報セキュリティの観点から、情報の社外持ち出しは厳しく制限されていることが多い。日常の業務が紙ベースの場合、会社の情報を持ち出すことができず、在宅での業務に支障がでている人も多いだろう。

また、情報がデータ化されていても、社内情報にアクセスできないケースも多いはずだ。そもそも、自宅で使えるPCがない、ネットワーク環境がない人もいるだろう。

紙の書類を受け取れない/提出できない問題

請求書や領収書などをはじめ、社外のやりとりは紙で行われる情報も多い。請求書が手元に届かないと仕事にならない経理の人もいるだろうし、立て替えた領収書が提出できずに、経費の清算に困っている人もいるはずだ。

印鑑による上司の承認も、物理的に不可能だ。

作業環境が悪い問題

オフィスの机や椅子は仕事に最適化されている。そのため、高さの調整ができ、クッション性も優れたものが多い。

だが、自宅の机や椅子は長時間仕事をするには快適とは言えず、肩が凝ったり、腰が痛くなったりすることも少なくない。

また、「ノートPCだと画面が小さくて疲れる」といった問題もあるはずだ。

コミュニケーションが難しい問題

在宅勤務では、日常のコミュニケーションが圧倒的に難しくなる。対面のように気軽に相談できないし、慣れていないとテキストのやり取りも面倒くさい。トラブルや急ぎの業務を文章で伝えなければいけないのは、かなりのストレスだ。

ツールの使いかたが分からない問題

社内ではグループウェアなどの扱いは比較的慣れているものの、社外からリモートアクセスする方法や、テレビ会議システムの使い方など、仕組みはあるが、使いかたが分からないケースも多い。

情報システム部門は、社員からの問い合わせでてんやわんやだろう。

たとえば、今回の新型ウイルス対応では、サイボウズも基本、在宅勤務となった。テレビ会議を行うと「ドキュメントの共有ってどうやるの?」といったやりとりが多く聞かれ、「サイボウズの社内でも、ツールの使い方に慣れていない人、意外と多いんだな」と思った。

その場に行かなければ仕事にならない問題

営業職をはじめ、仕事内容が「対面ありき」の場合、在宅勤務は難しい。また、製造業のように、物理的な「モノ」を扱っている場合も、テレワークのハードルはかなり高い。

テレワーク・在宅勤務の困りごと―プライベート編

次に、プライベートの困りごとだ。ここでは、個人的なことから、家族に関することまで挙げてみた。

気分転換しにくい問題

在宅勤務の場合、仕事とプライベートの切り分けがなく、気分転換が難しい。

今回に限らず、以前から在宅勤務が可能だったサイボウズでは、これまでも「ときどき在宅」といった働き方をする人は少なくなかった。

しかし、今回の新型ウイルス対応で「毎日在宅」となり、「在宅勤務には慣れていると思っていたけれど、毎日だとちょっとしんどい」といった声が聞こえている。経験があっても、慣れるまでは時間がかかるものだ。

運動不足問題

会社に通勤していれば、それなりに歩いたり動いたりする。だが、在宅勤務では動く範囲がトイレに行くぐらいで、運動不足になりやすい。

さみしい問題

家で仕事をするのは、意外と孤独だ。企画書を書いたり、プレゼンのスライドを作ったりするような、一人集中する作業にはいいが、同僚との何気ない会話はできないし、仕事で行き詰ったときに愚痴を聞いてくれる人もいない。

時間管理が難しい問題

在宅勤務の場合、仕事とプライベートの物理的な区切りがない。そのため、時間管理がやりにくい。

子どもの世話が必要問題

普段は保育園や学校に行っている子どもたちも、お父さん、お母さんが自宅にいると何かと絡んでくる。特に今回は学校が一斉休校になり、外出もできないため、子どもたちにも相応のストレスがかかっている。

また、子どもが自宅にいれば食事などの家事もしなければならず、その分の時間も割かれてしまう。

パートナーからのさまざまな依頼問題

自宅で仕事をしていると、パートナーから「買い物付き合ってくれない?」といった頼まれごとや、「今日って、時間ある? 病院まで送って欲しいんだけど」のようにさまざまな依頼を受けることがある。

もちろん、パートナーも悪気があるわけではないことは理解しつつも、「いま、仕事中なんだけどな……」と思うことも少なくない。

テレワーク・在宅勤務で試行錯誤を重ねた3年間

このように見てみると、在宅勤務は、テレワークの売り文句である「PC1台さえあれば仕事ができる」というわけではないことがお分かりいただけるだろう。

これらの問題を解決するために、「在宅勤務を快適にする〇つの方法」的なTipsも喜ばれるのかもしれない。だが、実際には「こうすればいいですよ」というほど簡単なものでもないのだろうと、わたしは思っている。

なぜなら、私自身、試行錯誤を重ねた3年間だったからだ。

だからといって、「在宅勤務は難しいので、やめましょう」とは思わない。むしろ、テレワークや在宅勤務の環境が整うと、長い目で見ると、場所の制約を受けない柔軟な働き方ができるようになる。

また、企業にとっても、テレワークを推進すると今回のような非常事態があったとき、事業が止まるリスクを減らすことができる

実際、いまでこそテレワークによる在宅勤務が比較的スムーズにできるサイボウズも、本格的な導入のきっかけになったのは、2011年3月に発生した東日本大震災だった。それ以来、さまざまな自然災害が起こっても、事業を継続できるようになった。

なお、今回の事態をふまえ、これまでサイボウズが取り組んできたテレワークに関する情報を以下のサイトで公開している。

ここからは、テレワークを始めるにあたり「今回の機会を生かすこと」や「少しの工夫で改善できること」を中心に紹介してみたい。

テレワーク・在宅勤務の工夫―業務編

まずは、業務におけるテレワーク・在宅勤務の工夫についてみていこう。

社内の情報にアクセスできない問題への対応

テレワークによる在宅勤務をオフィスと変わりなく行うためには、PC環境や社内情報へのアクセスは必須となる。

自宅のPCで、会社のPCが操作できるVDI(デスクトップ仮想化)を導入したり、ネットワークに接続できる社用ノートPCを持ち帰れるようにしたりする環境を整える必要がある。

サイボウズでは、多くの社員が普段からノートPCを利用している。セキュリティ教育を行ったうえで、社外からでもクラウド上のグループウェアに接続できるようになっている。

日常の業務も同じ環境で行っているため、今回のような非常事態でも、普段と変わりなく業務が継続できる

紙の書類を受け取れない/提出できない問題への対応

請求書や領収書など、紙でやりとりしているものについては、すべてを電子化できればいいのだが、日本の商習慣や税法上の問題ですべてを電子化できず、自社だけの対応では難しい課題も多い。

だが、一時的な対応なら、請求書はPDFで送ってもらったり、領収書はスマートフォンで撮影したものやスキャナーで読み取ったもので処理したりすれば対応できる。

なお、普段からテレワーク・在宅勤務のわたしの場合、請求書や領収書などの物理的な書類のやりとりは、電子データでやりとりしたのち、原本が必要なものは月1回の出社時に提出する形をとっている。

また、サイボウズにおける今回の新型ウイルス対応では、原則は在宅勤務とし、業務上の対応がどうしても必要な一部の社員のみ、最低限の出社ができるようにしている。

作業環境が悪い問題への対応

机や椅子は特別なものがなくても仕事はできるが、椅子の快適さは仕事に与える影響が大きい。

もし、肩の凝りや腰の痛みのように、体の負担を感じているなら、高さが調整できるタイプの椅子を用意してはどうか。「オフィスチェア」等で検索すると、安価なものは数千円程度からある。

また、「ノートPCだと画面が小さくて疲れる」場合、「テレビを外部モニターにする」という手がある。多くのPCやテレビにはHDMIという入出力端子がある。ケーブルでつなぐことで使えるようになる。

PC専用のモニターではないが、一時的な対応としては十分だろう。

コミュニケーションが難しい問題への対応

在宅勤務の場合、コミュニケーションはグループウェアやチャットツールなどを使う場合が多い。そのため、テキストのコミュニケーションが中心になる。

テキストコミュニケーションについては、以前「あいつ、家でちゃんと仕事しているのか?」──コミュニケーションが難しい在宅勤務を円滑にする工夫にまとめた。参考にしてほしい。

ツールの使いかたが分からない問題への対応

ツールの使い方は、慣れの問題であることが多い。今回を契機に社内で使っているツールをいろいろ試してみてほしい。

たとえば、テレビ会議で「ドキュメントを共有するときはどうするの?」という疑問が沸いたら、同僚に聞いたり、ネットで調べたりしてみよう。「おー、こんな使いかたがあったのか!」と、便利機能にビックリすることも多い。

また、もし、オフィスで決められたツールがない場合は、今回を契機にいろんなツールを試してみてはどうだろう? 世の中には、無料で使えるチャットツールやテレビ会議システムなど、さまざまなオンラインツールがある。

たとえば、サイボウズ式編集部では、業務は弊社のグループウェアを使っている。テレビ会議はZoom、社外パートナーとのやりとりはSlackやFacebookメッセンジャーなどを使っている。

少し話はずれるが、1(わたし)対n(オフィス)のテレビ会議は、会話に入りづらかったり、いきなり振られたりと慣れが必要だったが、全員がテレワークだとフラットな関係になり、1対nのテレビ会議よりも断然やりやすかった。

その場に行かなければ仕事にならない問題への対応

普段なら「対面ありき」の業務の場合でも、オンラインに置き換えることで対応が可能な場合がある。

たとえば、サイボウズでは、普段なら対面で行うことが多い採用の面談も、現在はオンラインで行っている。さまざまなセミナーも、ウェビナー(オンラインによるセミナー)に切り替えた。

製造業など、物理的な「モノ」を扱う在宅勤務については、あいにく、現時点での最適解を持ち合わせていない。だが、今回を機会に「もし、遠隔で仕事をするとしたら……」を考える機会ととらえてはどうか

たとえば農業では、ドローンを使うことで遠隔での農薬散布が可能になったように。

テレワーク・在宅勤務の工夫―プライベート編

続いて、在宅勤務のプライベート問題について。プライベートの問題解決は、「情報共有」と「自立」がカギとなる。

気分転換しにくい問題への対応

気分転換は自分で調整するのが基本となる。テレビ会議をする以外は、リラックスできる服装や好きな音楽、お気に入りの飲み物といったもので気分転換するといいだろう。

運動不足問題への対応

運動不足も自分なりの方法を見つけよう。新型ウイルス対応のいまなら、人混みを避けて近所を歩いたりするぐらいなら問題ないだろう。

たとえば、サイボウズでは、「1時間抜けます」とグループウェアで共有した上で、学校が休校となり、運動不足となっていた娘さんと軽い運動をしたという社員がいた。

さみしい問題への対応

さみしい問題におすすめなのは、同僚とのチャットだ。同僚とチャットのグループを作り、その時々の心情を書き込んでみよう。

ちなみに、サイボウズでは社内のグループウェアで「分報」(「日報」ならぬ、「分刻みの報告」)をつけている。「ちょっとした雑談」のようになっており、自分がおかれている状況の共有や、メンバーの状況把握に役立っている。

ポイントは、「なんでも書き込んでいい」とすることだ。業務のことはもちろん、「あー、ちょっと疲れた」「在宅勤務むずい」といった雑談的な話もいっしょに自己開示すると、さみしさも和らいでくる

なお、本来は上司部下関係なくできるのが理想だが、もし、ハードルが高ければ、まずは仲のよい同僚たちからでもいいだろう。

また、現状、社内でチャットツールを使っていない場合は、「ビジネスチャット」等で検索してみてほしい。無料で使えるチャットツールもある。

時間管理が難しい問題

在宅勤務では時間も自己管理が基本だが、いままでやってきた経験では、時間管理は厳しくしすぎないほうが、在宅勤務はやりやすい。

というのも、在宅勤務では仕事とプライベートを明確に切り分けるのが難しいからだ。

たとえば、子どもがいっしょにいる環境で在宅勤務をするためには、食事の準備などの家事をしなければならない。このときに、「お母さん(あるいは、お父さん)は12時まで仕事だから、それまでご飯は待ってね」では、子どもたちはおなかがすいてしまう。

このような問題を解決するために、時間管理は、ある程度社員に任せたほうがやりやすくなる

たとえば、サイボウズでは、プライベートの状況も含めて分報で共有する人が多い。「ちょっと早いですが子どものご飯を作ってきます。その分、早めに戻ります」「銀行に行きたいので30分抜けます。その分18:30まで稼働します」といった具合だ。

事情を隠さずに共有することで、同僚も理解できる。

なお、在宅勤務の場合、仕事とプライベートの区切りがない分、つい仕事をやりすぎてしまう恐れもある。「よし、今日はここまででやめよう」といった、自分なりの区切りは必要だ。

子どもの世話が必要問題への対応

今回のように、子どもがいる環境で仕事をする場合、一人になれる仕事部屋があればいいが、そうもいかないことのほうが多いだろう。

解決策とは言えないかもしれないが、お父さんやお母さんが在宅勤務している姿を「あえて見せる」というのは、一つの解決策なのではないかと思っている。

たとえば、サイボウズでは、子どもの体調不良などを理由に、日常から在宅勤務をする社員が少なくない。在宅勤務しているメンバーとテレビ会議をすると、モニター越しにお子さんが映りこんでくることもある。

このようなシーンでは、「いま仕事中だから、あっちへ行きなさい」と追い払ってしまいがちだが、サイボウズの社員は「うちの子どもです」といって紹介したり、同僚も「こんにちはー」「かわいいねー」とあいさつしたりするケースが多い。

すると子どもは、そのやりとりで満足するのか、あるいは「仕事中だから邪魔しちゃいけないな」と思うのか、ふと気づくと自ら離れていくケースが多い。

また、以前、フルタイム、フルリモートで働いているテレワーカーと対談したとき、「働く姿を見た子どもが『早く仕事をしてみたい』と言うようになった」とおっしゃっていた。

普段、働いている姿を子どもに見せることは少ない。だが、あえて「働く姿を見せる」のも、子どもにとってはいい勉強になるのではないかと思う。

パートナーからのさまざまな依頼問題への対応

パートナーからさまざまな依頼を受けたとき、何を受け入れて、何を受け入れないかは、そのときどきの状況によるだろう。

さすがに、業務時間内に「遊びに行きたい」といった依頼を受け入れるのは難しい。だが、「夕飯の買い物」や「子どもの迎え」といった内容なら、対応してもいいのではないか。

たとえば、サイボウズでは、「子どもを保育園に迎えに行くので、30分抜けます。その分は後で稼働します」のように、プライベートのやりとりも分報で共有する社員が多い。

ウソをつかず、情報を公明正大に共有すれば、同僚も理解してくれる。なぜなら、プライベートに仕事を持ち込んでいるのは「こちら」なのだから。

周囲の協力があってこその在宅勤務。働き方は柔軟に

ここまで、在宅勤務で抱えやすい問題と解決方法について見てきた。

オフィスに出勤しているときは、就業時間や仕事のやり方など、「会社のルール」で社員を縛ることが多い。だが、在宅勤務は仕事とプライベートの両立が前提となるし、家族がいる中で在宅勤務できるのは、家族の協力があってこそだ。

また、在宅勤務は相手が見えない分、社員同士の信頼関係が大切となる。そのためにも、仕事の状況や感情面をできるだけ隠さず、ざっくばらんに共有したほうが、おたがい安心できるしフォローも可能になる。

今回のような非常事態の形で在宅勤務するのは、できれば、少ないほうがいい。だが、在宅勤務の可能性を知るいい機会だ。さまざまな問題はあるかもしれないが、工夫をしながら取り組んでほしい。

※この記事は、サイボウズ式特集「長くはたらく、地方で」の連載記事として2020年3月11日に公開されたものです。

イラスト:マツナガエイコ

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