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「定年後も働かせてあげる」──年齢による差別がカイシャを潰す? 人口減少社会の処方箋はシニア社員との関係にあった

これまでシニア社員は、50代ぐらいになると役職がなくなり、定年退職後は給与とモチベーションがガクッと減る中で、再雇用やアルバイトのような形で働くのが一般的でした。

つまり、会社からは「戦力としてはみなされていなかった」わけです。

一方、人口減少社会と言われ、労働力人口が減少しているいま、人手不足が解消する兆しは見えません。

片や「人手が足りない」といいながら、片や粗末に扱われるシニア社員の実情に、なんとなくモヤモヤすることも。

そこで、自身も当事者である、50代のサイボウズ式編集部員が、社会の変化や自身の今後も踏まえて「シニア社員の働き方」について考えました。

※この記事は、サイボウズ式特集「長くはたらく、地方で」の連載記事として2023年9月14日に公開されたものです。


仕事は同じなのに、給与は減らされる現実

先日、定年後に再雇用された方が、正職員時代とほぼ同じ仕事をしているにも関わらず、「基本給が大幅に減ったのは待遇格差だ」として訴訟した裁判で、最高裁は審理を高裁に差し戻したという報道がメディアに流れた。

裁判の是非はさておき、これを「自分ごと」として捉えたとき、仕事はいままでと同じなのに、給与が大幅に減額されたとしたら、モヤモヤするかもしれない。

一方で、「仕方ないよな」とも思う。なぜなら、いままで企業によるシニア社員の雇用は「福祉的雇用」という考えが強かったし、労働者側も「働かせてもらっている」という意識が強かったからだ。

なぜ、同じ仕事なのに、給与は大幅に減額されてしまうのか?

ここで、福祉的雇用について触れておきたい。福祉的雇用を一言で言えば、「シニア社員は戦力ではないが、雇用はしてあげますよ」という考え方だ。

人材育成やキャリア形成の第一人者、法政大学教授の石山恒貴教授は、福祉的雇用について、著書『定年前と定年後の働き方~サードエイジを生きる思考』で次のように言っている。

企業はシニアが職場の戦力として中核になるとは、さらさら考えていない。しかし、社会的責任としてシニアを雇用する必要がある。

そこで、本当は職場で、さほど必要とされていない業務を作り出し、しぶしぶシニアを雇用する。これが、これまでの福祉的雇用の意味だった。

企業はシニア社員に対して、職場の戦力として中心的な役割を果たすとは考えていない。だが、それでは社会的な責任を果たせない。

そこで、シニア社員をしかたなく雇用して「あげていた」のである。

この状況について石山氏は、エイジズム(年齢による差別)と言っている。

だが、これからの日本社会を考えたとき、「いままでのような扱い方で本当によいのかな?」と感じる。なぜならいま、日本社会は、いままで経験のない大問題が差し迫っているからである。

深刻な人口減少問題

いま、日本では人口減少問題が深刻になりつつある

正確には、「なりつつある」ではなく、有識者の間では以前から問題視されていた。だがここにきて、社会の中で表面化してきた。

これをお読みのあなたも、「人口が減少している」という話は、一度ぐらいは聞いたことがあるだろう。最近では「ドライバーが足りない」「サービス業の人材が不足している」といった話題をよく見聞きする。

だが、どんなに「人が減っている」とはいえ、Amazonで頼んだ商品は翌日に届くし、コンビニに行けば商品がいつも通りにある。それほど差し迫った感じはしないし、「自分ごと化」できないのも当然だ。

ただ、実際はかなり深刻なのだ。

15年後、10人の仕事を8人でするようになる

厚生労働省が2023年2月28日に発表した2022年の自然増減数(速報値)によれば、日本の人口減少は78万人で、過去最大となった。

山梨県の人口が80万人弱だから、1年で1つの県がなくなるぐらいの規模で人口が減少していることになる。

人口減少が与える影響で、もっとも問題なのが生産年齢人口(15歳~64歳)の減少である。

令和4年版 情報通信白書によれば、2025年の生産年齢人口の推計は7,170万人だが、15年後の、2040年の推計は5,978万人となっている。わずか15年で現在の約8割になる計算だ。

出典:令和4年版 情報通信白書

つまり、今後は、老年人口が増え、生産年齢人口は減少し続けるわけだ。

この問題に対して、リクルートワークス研究所は『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』で、今後「生活を維持するために必要な労働力を日本社会は供給できなくなるのではないか」と問題提起している。

しかし現状では、シニア世代はまだまだ活躍できるにも関わらず「適当な仕事を与えておけばよい」となっている。そして、多くの企業で関心があるのは「若い世代をいかに雇用するか」だ。

この状況に、わたしは危機感を抱く。そして、こう言いたくなっている。「そんなことを言っている場合なのかな?」「そもそも、若い世代も減っているのに」

エイジズムを脱し、年齢に関係なく活躍できるようにしていくことが、今後、企業の生命線になるのではないか?

これから必要なのは「リスキリング」なのか?

人手不足やシニア社員の話題になると、よく話題に上がるのは「リスキリング」である。リスキリング(re-skilling)とは、職業能力の再開発、再教育のことである。

リスキリングはデジタル人材の不足も伴い、「資格を取ろう」「プログラミングを学ぼう」といった、「新たな知識を身に付ける」という理解が一般的だ。

だが、誤解を恐れずに、正直な気持ちをお話すれば、これから大切なのは、リスキリングではないのではないかと、わたしは思っている。というより、リスキリングという言葉を聞くたびに、わたしはモヤモヤする。

なぜなら、リスキリングの印象が「アンタたちのスキルはもう古いんだよ」「これからの時代を生き残るために、アンタたちはゼロから学び直さなきゃいけないんだよ」とお説教されている感じがするからである。

新たな知識をゼロから身に付けるのは容易ではないし、スキル身に付けたからといって、すぐに実務で生かすことができるのか、メシが食えるのかは分からない。

たとえば、わたしは以前プログラマーだった。その経験からあえて言わせてもらえば、ガチで仕事ができるぐらいのプログラミング技術を身に付けるのは、言うほど容易ではないよ。

しかも、最近ではAIの進化に伴い「プログラムはAIが書いてくれる」とも言われている。AIの学習スピードに勝てるわけがない。それにも関わらずAIに歯向かっていたら、みんな自信を喪失してしまうのではないか。

だからといって、「新たなスキルを身に付ける必要はない」と言いたいわけではもちろんない。

それならば、まったく畑違いのことでリスキリングするよりも、いかに「いままでの経験をよりよく生かせるか」や「自分の強みを発揮できるか」といった「アップスキル」の視点のほうが大切なのではないか

つまり、いままでの経験をなかったことにするのではなく、いままでの経験やスキルをアップデートするのだ。

いままでの経験をアップデートする2つのポイント

いままでの経験をアップデートするために、一体、シニア社員に何が必要なのだろうか。わたしは、大きく分けて2つのポイントがあるのではないかと思っている。

1つは、コミュニケーション能力である。

シニア社員が、これまでの経験を生かせない理由の1つに、コミュニケーションの問題がある。

たとえば、いままで成功体験があり、年齢が上であるがゆえに、相手の困りごとや、抱えている課題感をよく聞かずに、つい「そのやり方じゃあダメだよ」と批判的な言動をしたり、マウントを取ったりしてしまうケースがある。

大切なのは、自分が話したいことを話す前に「相手の話に耳を傾けること」である。

もう1つはノーコード、ローコードツールの活用である。

帝国データバンクが2023年4月に発表した『人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)』によれば、正社員の人手不足は51.4%となっており、多くの企業で人手不足になっている。

人口が急激に減少しているいま、特に人的リソースが少ない中小企業では、この傾向は今後も続くだろう。

ここで必要となるのは「デジタル化」だ。デジタル化によって業務を改善し、効率よく仕事をする必要がある。

だからといって、高度なプログラミング技術を身に付ける必要はない。大切なのはむしろ、これまでの実務経験や業務知識のほうだ。

幸いなことに、いまは、プログラミングのスキルがなくても、業務改善に必要なプロセスをデジタル化できる「ノーコード・ローコードツール」がある。

こういったツールを使うと、これまでの経験の中で身に付けてきた「業務を改善する能力」を発揮することができる

たとえば、サイボウズのkintoneを使い、業務改善をすることによって定年後に活躍する場を見出した「kintoneおばちゃん」という方がいる。

「豊富な実務経験」&「ノーコード・ローコードツール」を組み合わせることで、社内外で、シニア社員が活躍できる場が生まれるのではないか。

人口減少を「働き方を変え、長く活躍する機会」に

2020年初旬にはじまったコロナ禍によって、わたしたちは多くの制約を受けた。行動は制限され、いままで当たり前だった生活ができなくなった。

一方で、コロナ禍による恩恵もあった。テレワークが一般的になり、多くの人たちが、時間と場所の制約なしに、仕事ができる恩恵を知った。

つまり、すべての物事には二面性があるのだ。一見大きな問題に見える人口減少や少子高齢化も、実は、わたしたちの働き方を変え、活躍する場や形を変える大きな機会なのである。

それを実感するまでには、もう少し時間が掛かるだろう。だが、人口減少と少子高齢化は、これから間違いなく進んでいく事実だ。というより、これからがむしろ本番だ。

それならば、年齢や性別に関係なく、一人ひとりの個性や強みを生かしながら、できるだけ長く活躍しつづけることが大切なのではないか。

そうすれば、近い将来、きっとこんなふうに思える日が来るはずだ。「人口減少や少子高齢化は、本当に大変だったけれど、あのおかげで働き方が変わったよね」「働く年齢や場所に関係なく、ボクらは長く活躍できるようになったよね」と。

いまどんなに若くても、いずれ「シニア社員」と呼ばれる日がすべての人に来る。そのときに、前向きで楽しく働いていたいじゃないか。

最後に、企業の人事ではたらくみなさんへ

多くの人事のみなさんにとって、シニア社員の扱いは課題になっているのではないかと思います。

「上から目線で過去の経験を語る」「若い社員との関係が難しい」「役職定年をきっかけにモチベーションが下がった」「仕事と処遇が合わない」など、その対応が難しいですよね。

ましてや、これからは労働力人口の中でもっとも人口が多い団塊ジュニア世代がシニアになっていきます。これからますます、その対応が大変になっていくかもしれません。

一方で、「社員の役に立ちたい」と思っている人事の方であればあるほど、不当な扱いはしたくないでしょう。また、労働力人口がもっとも多い団塊ジュニア世代が会社を去るということは、人材不足に拍車がかかることを意味します。

わたし自身、いままでのような「あなたはもう会社にとって不要です。その分、ちょっと退職金を上乗せしておきました。さようなら」と、自己肯定感を削ぎ落し、社会に放流するいままでのやり方に違和感があります。

いままでは、どうすればよりよいのか分からずに「シニア社員だから」と、年齢で一律に扱うことしかできませんでしたよね。

でもこれからは、いままでとは違う、新たな関わり方があってもいいのではないでしょうか。

たとえば、本稿でお話したノーコード・ローコードツールの使い方を習得していただくような機会をつくって、これまでの経験を生かしてもらうような取り組みでもいいかもしれません。

また、給与はさがるけれども、そのぶん、労働時間を短くし、副業・兼業をOKにして、シニア社員が会社との関係をゆるやかに維持しながら、自立を促すのもいいかもしれません。

シニア社員との新たな関わりが、いま、はじまっています。

※この記事は、サイボウズ式特集「長くはたらく、地方で」の連載記事として2023年9月14日に公開されたものです。

イラスト:マツナガエイコ

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